成し遂げる力(日本電産会長 永守重信)

最近、日本電産創業者で有名な永守重信会長の「成し遂げる力」という著書(2021年)を読み、中小企業の製造業などの経営層の方も頷けて参考になる内容が記述されている。社員を含めたった4人で創業して、今や世界一の世界的な総合モーター企業に成長させた著者の力作を、興味を引くと思われる部分について以下に投稿する。

1.今は一番が一人勝ちする時代

現代は、シェア一番が一人勝ちする時代だ(当然、品質・精度なども一番)。二番でもいいと言っていたら、あっという間に三番手以下に成り下がってしまう厳しい世界だ。

まさに、「一番以外はビリ」なのだ。オリンピックでも、表彰台で金メダリストを見れば一目瞭然である。一番高い表彰台で国歌が全世界に流れ、中継される。順位とは名ばかりで実は金メダルの「一人勝ち」である。

2.真似だけでは人を越えることはできない

一番を目指すための第一歩は、その分野のトップランナーを詳細に研究して真似ることだ。モーター開発を例にとると、市場のトップシェアの他社製品を入手、分解してどの性能が優れているか、顧客が魅力に感じている点はどこかを徹底的に分析する。実際に真似て作り、技術的難易度も実感する。その上で、最先端のアイデア・技術を加えることでイノベーションを追求して一気に抜き去るのだ。

私は創業以来、京セラ創業者の稲盛和夫さんを目標に今日まで必死に走ってきた。稲森さんを師と仰ぎ、時にはライバルとして背中を追ってきた。京セラは「アメーバ経営」と言う独自のスタイルで会社全体を機能別・製品群別の小組織に分け、あたかも中小企業のように独立採算で運営すると言う、画期的システムであった。現場にコスト意識・経営意識を植え付け、会社全体を活性化させる素晴らしい手法を知り、益々稲森さんへの尊敬の念を深めた。

だが、日本電産にはなじまないと判断しアメーバ経営を参考にして「事業所経営(各工場を拠点に仕入れから生産に至るまで一貫した体制を敷き、各事業所の損益を明確にする独立採算性)」を浸透させ、事業所の責任者が営業・開発・製造の各部門のバランスを取りながら全体最適を目指すことができるようになった。海外進出についても同様なことがいえる。

日本電産は、「顧客の近くでモノを作り、供給する」 「品質に問題があれば、直ちに出向き、然るべき対応をとる」という顧客密着型の経営方針を掲げ、「メードインマーケット」をキーワードに、グローバル展開を推してきた。

3.できないと思うより先に「できる」と百階唱えよ

創業間もない頃、「今の製品の半分の重さで、パワーは2倍。加えて消費電力が半分で賄える性能がほしい」、大手メーカーが二の足を踏むようなこの無茶な注文を受け、どうすればできるか図面を引き、試行錯誤を繰り返し、発注元が指定した性能には及ばなかったが技術水準の高い試作品を仕上げた。その試作品を持って行くと、「大手に断られたが、よくできましたね」と感心され、注文をくれた。発注元からの無理難題を言われても仲間に「“できる“を百回言おう」と呼びかける事を繰り返した。

4.すぐやる習慣が、命運を大きく分ける

我が社の三大精神(基本精神)、「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」の筆頭に“すぐやる”をあげたのは、開発段階において、いかに短時間で実験を繰り返すかが勝敗を大きく分けるからだ。

つまりスピードが成功への大きな要素になる。

赤字会社の現場は、高い技術力と優秀な人材・安定したマーケットをもっているが、経営判断・決断から実行までのスピードが遅く時間がかかり(我が社の3倍)M&Aの傘下に入った。

このような会社は、ゆったりしたぬるま湯社風が醸成されたことでトップから末端社員まで伸びる芽が摘み取られたと考えている。

5.素早く、粘り強くチャンスをつかみ取る

創業当時、日本企業は系列や実績重視のため、できたての零細企業が入る余地はなかった。

アメリカに活路を求め、電話帳をめくり3M(スリーエム)社を見つけ、カセットテープを高速でダビングできるカセットディプリケータの小型化を模索しているという情報を得て、小型モータのサンプルを持参した。

先方の技術部長は「性能を落とさず小さく出来ますか」と尋ねてきたので「3割小さくします」と即答した。必死にスリーエム社のニーズに対応すべく努力を重ね、半年後にパワー・スピード・回転数・ノイズ・耐久性などの性能を満たし、3割小型化したサンプルをスリーエム社に持参した。

「すばらしい」と技術部長は絶賛、その場で1000個の注文をくれた。この受注が日本電産の評価を急上昇させ、日本の他社からも注文をもらえるようになった。そして会社の成長に繋がる流れを掴むことが出来た。

相談を受けたときに「一晩考えさせて下さい」と答えていたら、その後の展開はなかった。約束したからには「必ずやる」ということである。

会社の主要商品をFDD(フロッピー・ディスク・ドライブ)からHDD(ハード・ディスク・ドライブ)モータへと転換したときのことである。当時アメリカのメーカーから受注をもらうべく何度も本社を訪問したが、担当者に会えない。メーカーの東京支店長にアプローチをかけ、「どんな要求にもスピーディーに対応する」と繰り返し強調した結果、営業活動が認められた。

ここから本社シリコンバレーのサンタクララに営業担当者を常駐させ、「1日1回は必ず訪問して、粘り強く交渉を続けよ」と命じ、サンプルを何度も改善して、約1年後にHDD用スピンドルモータ(精密回転軸用)の実用化に成功した。

技術スタッフの奮闘と営業担当者の地道な努力がここに実った。このメーカーの副社長は「ナガモリの姿勢には、ネバー・ギブ・アップの精神を感じた」と評してくれた。

6.明るい言葉を使えば明るい未来が見えてくる

販路開拓のアメリカで、蕁麻疹が出て病院に運ばれ医師から「ハウ・アー・ユー(調子はどうか)」と尋ねられ「ノット・ファイン(よくない)」と答えた。幸い治療により退院できたが、医師から「ミスターナガモリ、企業の経営者なら弱気なことを言っていると会社は危ない。どんなときもファイン(調子いいよ)と答えなさい、そうすれば明るい未来が見えますよ」。以降、どんなときも「ファイン、エクセレント(最高さ)」と答えるように心がけている。

世の中、「だめだ、出来ない」と否定の言葉から物事を考える人がいかに多いか。特に高学歴のエリート、IQ(知能指数)の高い人に、その傾向が多い。常に明るい言葉を使い続ければ、どんな逆境の中でも明るい兆しを見つけることが出来るものだ。

7.料理人の修行に学ぶ「下積み」の大切さ

現場で経験を積む中で、自分の頭で考えて応えを見つけていくというのは、かつて日本の様々な分野で知

られた「子弟制度」で見られた。料理の世界、日本料理店の場合は京都の料亭に修行に出すことが多い。すぐに料理はさせてもらえず、板場(調理場)にも立てず、まずは下足番から修行が始まる。

比叡おろしが吹きすさぶ中、玄関でお客さんを迎え、お客さんの靴を覚えておき、帰るときにさっとそろえる。そして客の料理の寸評を耳を立てながら聞き、「鯛のあら炊きは最高でしたな、汁物はいつもより濃かったので残した・・」、これらの会話を聞き、料理長の尋ねに対して細かく報告するまでが仕事だ。

次に、皿洗い、皿並べ、配膳役と延々と続き、5-6年経ち、料理長から「汁でもやるか」と言われ、ようやく料理の修業に入るのだ。

一方、機械工学卒業の社員に「初めはモノ作りを経験するのもいいぞ」と勧めたとして、すると「現場で働くために大学院を出たわけではありません」と拒否反応を示す者がいる。

第一線の現場で働く人と苦労をともにすることが、将来どれだけ役立つか理解できないのだろう。自分が設計した図面がどのように製作され製品になっていくか、それは“体で覚える事の大切さ”を後になって知ることだろう。

8.ギリギリまで重ねた努力が運を呼び寄せる

「運が七割」と私は言っているが、極限までの努力がベースにあってこそ、初めて運がついてくるのだ。創業数年後に、HDD用のモータ開発に社運をかけていたとき、ベルトドライブ方式はスペース効率が悪いうえ発熱も大きい欠点があった。当社はダイレクトドライブ方式で小型化を目指し、技術的難易度ははるかに高いが開発スタッフは昼夜の奮闘により、半年後に完成して日立製作所からの受注に成功した。

だが問題として、不良率が高いことがあった。

ある日、顧客である日立製作所の工場査察を受けたとき、日立の部長が当社の一社員に「久しぶりですね、あのときは大変お世話になりました」といった。その部長が学生時代に手ほどきを受けた人物が、まさに当社社員であったので状況は一変し、日立の工場で当社が技術習得の特訓を受けることになった。

極めて異例の対応であり、まさに幸運としか言い様がなかった。こうして当社はHDD用モータのノウハウを確立、飛躍していくが、あくまでも運七割は懸命な努力があってこそだった。

その後、高精度・高速化のためFDB(流体動圧軸受)の開発を先読みし、先行メーカーが経営危機に陥ったため、同社を買収・子会社化し、多数の特許も得て一気に成長したのだ。

9.足下を悲観していれば将来は明るい

母から教わった「足下悲観、将来楽観」の言葉通り、常に足下を悲観して準備を怠らず、変化した市場に一番乗りすることを目指した。

母は、松下幸之助や本田宗一郎などの名前を出して、このような人物でも最初は貧しかった、だが逃げずに立ち向かうことで幸せになれる、といっていた。「足下悲観、将来楽観」は、嫌なことが1回起きると良いことが2回帰ってくる。人生の成功を手にするためには、苦労に対して逃げ出さない、やれるところまでやるという信念を持つこといかに大切か。

10.チャレンジした人が評価される“加点主義”を貫く

 世の中は、「減点主義(スタート時の点数から減点される)」の会社が多くあるが、当社は「加点主義(失敗しても減点、加点もない、敗者復活のチャンスがあるだけ)」である。当社の優秀な営業マンの例だが、

 ある日、不渡り手形をつかんでしまい、会社は大きな痛手を被った。私は容赦なく彼を叱りつけたが、「もう一度チャンスを下さい。必ず取り戻します」と言ってあきらめない。

その後、失敗を教訓に上場企業に絞って営業活動をした彼は、門前払いを食らっても持ち前の粘り強さで、成果を挙げ初め、5年間で従来の10倍もの利益を上げるようになった。

日本では失敗したら責任をとって辞めることが一般的だが、本当の責任をとるということは、辞めることではなく、その失敗から学び、糧にして次の成功につなげることだ。失敗しないことよりチャレンジしないことの方が問題である。

失敗しても強い人間になるためには、何度もチャレンジを繰り返し、失敗の原因を見極めて反省し、二度と同じ失敗を繰り返さないことだ。それが成功に向かう道である。

11.リーダーは「千回言行」を実行せよ

 稲盛和夫さんは、経営破綻した日本航空の再建を果たしたが、航空業界と無縁な稲森さんが、まず最初に取り組んだことは、幹部の心を変えていくこと、そして全ての社員に再建することの意義と熱意を訴えることだった。

結果的に、全社員の心が一つになったからこそ「奇蹟のV字回復」は成し遂げられた。

自分の情熱・ビジョン・夢・・・リーダーは全てのメンバーと共有するべく訴えなければならない。それは効く者の心に染み込み、魂を揺さぶるまで何度と語り続けなければならない。

オムロン創業者の立石一真さんは、自動改札システム構築にあたり、トップとして技術開発をやり抜くことを社員達に何度も繰り返し訴え続けたが、その中での一つに、比叡山の修行で最も厳しい“千日回峰行”を語った。7年の歳月をかけて比叡の峰峰をめぐり礼拝する修行のことだが、白装束を身に纏い、万一、行半ばで挫折するときは、身につけた短刀で自ら命を絶つ。千手観音像を見てわかるように、仏教では「千」という数字が特別の深遠な意味を持つ。

人生も経営も同じで、社員や部下を納得させ動かそうとするには、千回は同じ事をいわねばならない。

12.失敗談と夢を語る人に人は惹かれる

 私の履歴書(日本経済新聞)は、各界の著名人が自らの半生を語る名物コラムだが、成功の自慢話より失敗談に人気がある。

「華々しく成功した人でも、その過程で数々の失敗をして苦しんだのか」と心に響くものがある。

私が「訴える力」を高める上で心がけていることは、「現状をありのままに伝える」ことだ。

その中に失敗談をネタにして、随所で笑いや驚きを誘い、関心を引く話を最後まで引きつける手法などを駆使する。次に若い人に「夢を語る」事は、効果的なのだ。

採用において、優秀な人材がいて説得に当たったが「あるベンチャー企業から誘いの話があり、迷っているのです」という。そのベンチャー企業の社長から、「日本電産なんてやめなさい。いずれ当社が買収するから」と説得されたというのだ。話を聞くと実は、私の次男が経営するベンチャー企業だった。待遇は日本電産の6割だが、「これから世界をあっと言わせる企業に育てていく。ぜひ力を貸して欲しい」と次男が語ったらしい。面接した彼は壮大なロマンに引きつけられていたのだ。我が息子ながら人の心をそこまで動かす「訴える力」はなかなかのものである。

13.トップは自ら進んで「御用聞き」になれ

 「部下が、報連相に来ない」と嘆く管理職がいるが、上司を敬遠して近寄ってこないが、胸の内では声かけを待っているのだ。「機械の調子はどうか」と上司は声をかけること、自ら足を運び・伝え・導くことを心がけて欲しい。

14.世の中を見る「鳥の眼」と「虫の眼」をもて

 世の中の流れをつかみ対処して行くには、はるか上空から地上を見下ろし全体を一望のもとにつかむ「鳥の眼」と地面に張り付き、どんな小さな変化も見逃さない「虫の眼」が必要だ。

隆盛を極めた事業でもピークアウトは訪れるので、中長期的視点(5-10年後)に立ち、時代を先読みした次の一手を打つことが何より大切だ(鳥の眼)。

1983年、我が社はFDD用モータから撤退しHDD用モータの開発・製造に全ての経営資源を集中した、戦略上の大転換を決断した。現状の主力製品では、コンピューターの薄型化・小型化が進む潮流に小型化・高精度化の要求に技術面・生産面で膨大なノウハウに対応できず、逆に、このニーズを先取りすれば大手に対して、シェアトップに躍り出ることが出来ることができる。それが私の読みだった。

15.ゆでガエルになるな、時代の変化に対応せよ

 物事には変えてはならないものと、変えるべきものの両面がある。会社の根っこ(土の下)である理念・社是・基本精神である。一方、土の上の枝葉は春夏秋冬、装い変えて身の丈に合った新しい服装によって時代の最先端を走り続けなければならない。

かつて「築城三年、落城三ヶ月」と言う時代から、「築城三年、落城三日」と言われるようになって久しい。さらにITの発達とグローバル化で「落城三時間」という時代が到来している。時代の変化を敏感に嗅ぎ取り、バージョンアップして、順調なときに次の一手(次に訪れる世界)を考えることが重要だ。

カエルは熱湯に入れられると驚き飛び出す。だが徐々に温度を高くしていくと、温度変化になれていき、棄権に気づいたときには既に遅く、茹で上がって死んでいるのだ。周囲を見渡すと“ゆでガエル人間”が多く、その人間の特徴は「マンネリ・諦め・怠慢・妥協・驕り(おごり)・油断」の六悪に集約できる。

この病理現象は、順風満帆のときほど蔓延しやすく、会社でいえば、製品のシェアが90%以上になると兆候が見られる。競争相手がいないので、頂点を極めたビジネスをやっていると、気が緩み緊張感は失われる。結果、必ず会社は自滅する。

「脱皮しない蛇は死ぬ」という諺通り、周囲の変化に先行して自己変革しなければ「負け組」に入る。生き残れるものは、最も強いものでも、最も賢い者でもなく、「変化できるもの」だけなのだ。

16.「現場・現物・現実」を見ることなく経営を語るな

 経営の基本中の基本は、「現場・現物・現実」を正しく把握すること。これをしない机上の空論を振り回す人が多いが、これでは評論家が経営をしているに等しい。私は、買収した子会社を含め、全ての工場を定期的に回り、自分の目で確認して、幹部から現場の社員と共に食事をしながら、本音で語り合った。

 一つ一つの工場を訪問した後に、気づいた問題点・現場からの提案・問題提起に基づく指示は、全世界のグループ会社に一斉に発信する。そうした現場重視の考え方は昔も今も変らない。

細かな問題を虫の眼で一つ一つ拾い上げるが、その時の物差しになるのが6S(整理・整頓・清潔・清掃・作法・躾しつけ)である。一流企業に共通する点は社内の清掃と整理整頓が徹底されていることだ。

約束時間をしっかり守り、訪問者を待たせず、受付での対応から、廊下などですれ違う社員たちの言葉遣い、行動の仕方、身だしなみが素晴らしく、EQ値(意識)が高いのである。

他方、業績悪化の企業はオフィス・工場はひどく汚れており、社員の身だしなみや来客の対応もなっていないのである。

17.大きな課題も「千切り」にすれば必ず出来る

 困難な大きな課題に直面しようと、千に切り刻むように小さくして課題を抽出し、根気よく考えて解決法を見つける。一例であるが、重機で運搬できない大きな工作物を移動するには、小さいパッケージにして現地組み立てする方法をとれば良い。

スポーツでは、オリンピック選手に「42kmの長距離をよく走れますね」と尋ねたら、「いや、長距離を走るのは苦痛です。だから、次の角を曲がったらやめようとか何十回も考えて、走っています。そして結果的に人より早くゴールインできたのです」。

つまり、最初からゴールを目指して走るのではなく、コースを細切れにして走破している。

知識を身につける方法として、「1日1時間、寝る前に本を読む、セミナーを受講する」など具体的行動を打ち出すことがポイントである。すなわち目標達成という課題への道筋を、ある長さで細切れにして一つ一つを確実に成し遂げることで努力は報われるのである。

18.人間としての器を大きくする方法

 これからの日本社会は、従来の偏差値の高い高学歴人材の重用、つまりIQ(知能指数)値で示される優秀さより、EQ(感情指数)値の高さが求められる。

それは情熱・熱意・執念で困難に立ち向かう能力、他人の苦しみを深く読み取り、人心を束ねる能力。いかなる風雪にも耐え得る強い心ともいえる。

 IQは生まれつきの面がある、だがEQは努力次第で大きな差がつくし、AI・ロボットの登場で、人間にしか出来ない仕事、創造性や共感性それに非定型性という特徴の仕事においてEQ値の高い人材は、本領発揮できる分野で誰もが特化できる。

EQは人間力に置き換えても良い。人間力を高めるとは、人間としての器を大きくしていくことでもある。一升枡のままでは一升しかはいらない、より大きな仕事をすればには、その仕事に応じた自分の「器」をつくること。持論であるが、仕事以外に飲み歩く、趣味に没頭するなどやっていては、一番の目的の「仕事の器」を大きくすることは出来ない。

19.全てが自分事になると、人生が変わる

 人としての「器」を大きくするということは、自分の周りの出来事を「自分事」にとらえて、責任を持つということである。前の会社が倒産した中途採用者も多いが、なぜ潰れたかと原因を聞く。「社長が女を作り遊んでいた、また社長が美術品に夢中になり会社の金をつぎ込んだ」など。

倒産の原因は経営者層に有ると思い、自分に責任の一端がある事に気づかない。

ではあなたは何時に出社していたかと尋ねると「9時に出社していた」、購買部にいたというから、ベアリングはいくらで買っていたかと尋ねると「103円、月に10万個購入していました」というので、すぐ購買部長を呼び同じものがいくらで当社は購入しているかと聞き出すと「うちは83円で買っていますが、78円にしろと交渉中です」。この言葉を聞いた彼は、縮こまってきた。

倒産の原因が自分の意識の低さにもあったことを説いていくのである。つまり、倒産した会社に共通しているのは、「責任をとろうとする人間がいない」こと。

困難から目をそらし、正面から対することを怠っているのだ。「自分のせいではない、円高だから仕方ない、人が足りないので無理だ・・・」、このような泣き言・言い訳を言って、現実の困難から逃げようとする。 困難から目をそらすと言うことは、解決策からも遠ざかることになる。なぜなら、困難は必ず解決策と共にやってくる。どんな困難に直面しようと「自分ごと」として受け止め、対処していくときに、人は強さを身につけ、人間的にも成長するものだ。「三ない主義→泣き言を言わない、逃げない、できるまでやめない」を貫く精神力を身につけることである。

20.なぜ、いま「人を育てる」ことに力を注ぐのか

 今、私は「教育改革―人を育てること」に情熱を注いでいるのか、それはグローバル社会において年々その地位を下げ筒ある日本の将来を本気で懸念しているからだ。

このまま手をこまねいていては、さらなる地盤沈下は避けられず、再び活力ある社会を取り戻すために、世界で通用する実践力を身につけた若者の育成が急務であると考えているからだ。

日本の大学教育を終えただけの若者では、海外勢に比べて実力差がありすぎ、グローバル社会の中で活躍の場が限られてしまう。その責任は我々大人が追っているのだ。

そこで、2018年に私財を投じて、京都学園大学の経営を引き継ぎ理事長に就任、翌年に京都先端科学大学と改称し本格的に教育改革に乗り出した。大学運営に乗り出すきっかけは、モータ技術者不足にあった。 募集をかけても大学でモータを学んだ学生が少なく、入社後にビジネスの「いろは」から教え込まなければならず、「産業のコメになる」時代にグロー成る競争に打ち勝てない。

 大学は今まで、企業や社会がどんな人材を求めているかも考えずに、大学側の都合に合わせた教育方針で卒業生を社会に送り出してきた。これが企業であれば、顧客が求めているものを供給できなかったらビジネスは成立しない。

大学も本来そうあるべきなのに、顧客である企業が満足するような卒業生を送り出したか、胸に手を当ててよく考えて欲しい。このような状況を見過ごしてきた国も同罪で責任がある。

企業が求める人材、それは自らの力で課題を見つけ、解決の道筋を探り、それを実践する力を身につけた即戦力の人材である。

日本の大学教育の現状では、こうした力を磨くことになっておらず、偏差値の高い大学目指して、受験勉強に明け暮れて要約大学に入ってくるのに、そこで得られる教育がこのようなものでは、この変化の時代に対応する武器を身につけないまま社会に出ることになってしまう。

 一方、教える教授は、古い講義ノートを広げて、何年も変わらず同じ講義をしているケースも少なくない。学生達は試験に備えて、それを一方的に聴いているだけだ。

このような講義では、自分でものを考える習慣を持たなくなり、“指示待ち族”が社会に巣立つのも無理はない。このような旧来の大学教育に風穴を開けていく。企業や社会が求める人材像と大学教育との乖離を埋めていくのが、目指す人材革命の眼目だ。

21.グローバル社会で活躍できる人材を育てるため

 人間には3つのタイプがあり、①自分で燃える人(自燃型) ②他人の火をもらい燃える人(他燃型)

③全く燃えない人(不燃型)である。

80%が他燃型、17%が不燃型(20%を超えると組織は潰れるので10%以下にしたい)に属する、そして、わずか3%が自燃型で貴重なタイプだ。だが、最近の新入社員を見ると、熱量が伝わってこない者が多い。

 最近は偏差値が高い有名大学の新入社員が採用できるようになり、期待したが、それは失望に変わった。これだけは誰にも負けないという「専門分野」を持っていない。英語もしゃべれず、礼儀作法も知らず、社会的常識にも欠けている。

これでは一から教え込まなければ戦力にならず、東南アジア諸国との熾烈な国際競争に勝てるはずがない。原因は一言で言えば「偏差値教育」で、このような教育を受けてきた若者たちもかわいそうである。自分の手で輝かしい未来を切り拓いていける、わくわくした人生を送るチャンスを与えてあげたい。

 CEOを後進に譲り、今後は「人材革命」のために有り余る情熱を傾注する決意である。

                                  終わり

サウンドスクエア 株式会社

〒314-0346 茨城県神栖市土合西一丁目1番21号 TEL 0479-21-3883 FAX 0479-21-3882

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