決断力

1、要旨

 羽生善治著「決断力」を読んで、親身に迫る内容に驚いた。私も趣味が将棋で小学1年生からやっている。レベルが低いながらも、将棋の勝負を味わってきたので、この本の内容に感じ入った。その本の内容の一部を抜粋して以下に記す。

2、勝機は誰にもある

(1)勝負が決定するまで、だいたい百数十手。この中に流れがある。流れは人為的に支配できるものではない。対局中にはいろいろなことを考えるが、思ったとおりにはならない。思いがけない展開になってしまう。流れをつくるよりも、サーフィンのように流れにのっていく。波はつくれないが、乗れるかどうかだ。しかし、波は幾度か変わる。つまり、お互いに何度かの勝機がある。これを掴めるかどうかが実力というものだろう。

(2)優勢のほうが手数をかけていると展開はおかしくなる。将棋では長引くとごちゃごちゃな展開になり、迷いやミスが生じやすい。結果逆転の可能性も高くなる。実践心理でいうと、優位のほうは慎重になり、悪いほうは開き直っているから逆転しやすいともいえよう。将棋の世界に「保険をかける」という言葉がある。自分が優勢になった時に、安全勝ちの手を選ぶことをいう。相手を崖っぷちまで追い込んで棒立ち状態になった。ここで「負けてはいけない」と安全に見える筋に気持ちがいってしまうと、集中力を欠き、シンプルに勝ちにいく順をためらってしまう。結果、逆転負けということが起こる。

(3)一般的に経験は人を強くするという固定観念があるが、いろいろ考え過ぎてしまい、一番いい方法にたどり着くのに時間がかかったりしてしまう。また判断に迷う材料も増えて、おじけづいたり、迷ったり、躊躇してしまったり、ネガティブな選択をしているときもある。つまり経験には「いい結果」と「悪い結果」がある。それを積むことによっていろいろな方法論というか、選択肢も増えてきた。しかし一方では、経験を積んで選択肢が増えている分だけ、怖いとか、不安だとか、そういう気持ちも増してきている。考える材料が増えれば増えるほど「これと似たようなことを前にやって失敗してしまった」というマイナス面も大きく膨らんで自分の思考を縛ることになる。そういうマイナス面に打ち勝てる理性、自分自身をコントロールする力を同時に成長させていかないと、経験を活かし切るのは難しくなってしまう。

(4)見た目にはかなり危険でも、読み切っていれば怖くはない。剣豪の勝負でもお互いの斬りあいで、相手の刀の切っ先が鼻先1センチのところをかすめていっても、読み切っていれば大丈夫だ。逆に相手に何もさせたくないからと距離を十分に置いていると、相手が鋭く踏み込んできたときに受けに回ってしまう。逆転を許すことになる。将棋では自分から踏み込むことは勝負を決める大きな要素である。将棋の醍醐味はそういうところだと思っている。戦ってこちらも傷を負うけれど、結果として僅かに勝っていればいいのだと。勝つのは一点差でいい。五点も十点も大差をつけて勝つ必要はない。常にギリギリの勝ちを目ざしているほうがむしろ確実性が高くなると思っている。

3、直観の7割は正しい

(1)決断することは本当に難しいと思っている。対局中は決断の連続である。その決断力の一つ一つが勝負を決するのである。経験によって考える材料が増えると、逆に迷ったり、心配したり、怖いという気持ちが働き、思考の迷路にはまってしまう。将棋にかぎらず、考える力というのはそういうものだろう。

(2)人間の持っている優れた資質の一つは、直観力だと思っている。一局の中で、直観によってパッと一目見て「これが一番いいだろう」と閃いた手のほぼ七割は正しい選択をしている。直観力はそれまでにいろいろ経験し、培ってきたことが脳の無意識の領域に詰まっており、それが浮かび上がってくるものだ。まったく偶然に、何もないところからパッと思い浮かぶものではない。

(3)勝負には通らなくてはいけない道が存在すると思っている。リスクを前に怖じ気づかないことだ。恐れることも正直ある。相手を恐れると、いろいろな理由をつけて逃げたくなる。怖いから腰が引けてしまう。しかし、勝負する以上、必ずどこかでそういう場面に向き合い、決断を迫られることになる。そういうときには「あとはなるようになれ」という意識で指している。どんな場面でも、今の自分をさらけ出すことが大事なのだ。

(4)決断とリスクはワンセットである。日本の社会は同質社会ということもあって、このバランスが悪い。リスクを負わない人がいる一方で、リスクだけ負わされている人がいる。決断を下さないほうが減点がないから決断を下せる人が生まれてこなくなるのではないか。目標があってこその決断である。リスクを背負って決断を下す人が育たないと、社会も企業も現状の打破にはつながらない。リスクを避けていては、その対戦に勝ったとしてもいい将棋は残すことができない。次のステップにもならない。それこそ大いなるリスクである。いい結果は生まれない。積極的にリスクを負うことは未来のリスクを最小限にすると、いつも自分に言い聞かせている。

4、勝負に生かす「集中力」

(1)集中力だけを取り出して養うのは難しい。本当に夢中になったら黙っていても集中するのだ。集中力がある子に育てようとするのではなく、本当に好きなこと、興味をもてること、打ち込めるものが見つけられる環境を与えてやることが大切だ。何かに興味を持ち、それを好きになって打ち込むことは、集中力だけでなく思考力や創造力を養うことにも繋がると思っている。

(2)対局ではスポーツの試合と同じように、流れが非常に重要である。もちろん読みは大事なので、「次はどうしようか」とまず考えるが、わからない場合は「今までの 流れに沿って一番自然な選択はなにか」と考える。たとえば急戦でどんどん攻めていこうという作戦を選んでいたら、次の場面で攻めに転じる手、積極的に攻撃を続ける手がたぶんいい手になるだろう、そういう仮説を立てる。そして、その仮説に基づいて読みを進めていくのである。

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