経営秘伝

1、 要旨

少し古い本になるが、松下幸之助晩年の22年間をその下でPHPの仕事をやってきた江口勝彦著「経営秘伝」を読んだ。内容は著者が松下幸之助からきいた話を自分なりに纏めたものだ。でもその内容が決して古いものでなく、現在でも通用する内容だったので、以下にその抜粋を記す。

2、 冷静に判断し、それから情を添える

経営を進めて行くときに大事なのは、事に当たってまず冷静に判断すること、それから情を添えること。この順番をわきまえておかないと失敗する。冷静に考えずに情で判断してもうまくいかない。事の決定がいい加減になるためだ。けれど、冷静に判断し行動をしただけだと、冷たくなっていけない。やるべきはやる。しかしそれだけではなく、そのあと心を添えてあげる。気配りをしてあげる。そういうことが大事だ。

3、 方針を明確にうちだす

経営者は方針を明確にする必要がある。方針によって従業員は自分の努力の方向を知る。夢とか理想とかがはっきりしておれば、自分の努力が結局どこに繋がるのかよくわかる。基本理念や具体的目標、それに理想という三つの内容を持った方針を出さないといけない。経営者だけでなく、従業員も株主もお客様もみんながそういう方針ならば賛成できます、納得できますというものでなければならない。さらに、世間様が賛成してくれるか。さらには天地自然の理にかなっているかということも考えないといけない。

4、 生産者の使命

商売するものの使命は「この世から貧を無くすこと」であり、生産者の使命は水道の水のように、良いものを安くたくさん作るということ。良いものというのは、品質や性能が良いということだけではなく、材料も良いものなのかが大切だ。

5、 個性的人材が会社を強くする

 会社は個性を持った人の集まりにすることが大事。個性豊かな社員たちをどう活用していくか、これが経営の見せどころ。会社の方針があると個性を発揮できないという人がいるが、実際にはそんなことはない。個性というものは、拘束というものがないと発揮できないもの。大工さんの道具箱というひとつの方向があって、カンナもあればノコギリもあればノミもあるというように、それぞれの個性を主張している。

6、 部下の話をよく聞いて知恵を集める

 部下の話を聞くというのは、経営者としてこんな得な、良いやり方はない。けれど、一般的に経営者の人たちは本当にやっている人は少ない。部下の人より賢いところを示さんといけないという態度をとる人が多い。本当はそういう態度をとったら損だ。経営者にとって一番大切なことは、いばることでなく、会社を発展させる道を見つけ出すこと。部下の話を聞くときに、心がけることは部下の話の内容を評価して、良いとか悪いとかいったらダメ。部下が責任者と話をする、提案を持ってくる、その誠意と努力と勇気をほめないといけない。経営者はたくさんの話や知恵のなかから、自分で考えて考え抜いて、ひとつの決断をしていく。そうすれば大概は間違いなく経営を進めていくことができる。部下の話を聞いていると、部下の人たちが成長する。つねに上の人からものを尋ねられる、聞いてもらえるということになれば、部下のほうでも聞かれたときに多少はましな話をしようと思う。そう思えば聞かれる前に、勉強しようか、調べておこうかということになる。部下自信が自分から勉強しようとさせること。人を育てるというのは時間がかかる。木を育てるのは十年の計、人を育てるには百年の計といわれる。教育というのは、夏の芝生の雑草とりに似ている。一回雑草を採ったから、もうその芝生はひと夏雑草が生えてこないということはない。雑草をとってもとってもまた生えてくる。それをまた抜いていく。その繰り返しによって芝生はきれいな状態に維持される。教育も同じこと。繰り返し繰り返し根気よく行っていく。その繰り返しそのものが教育であり、その根気が人を育てる。

7、 熱意から成功への道は開ける

 経営をするときに、何が一番大事かといえば、それは経営者の熱意。溢れるような情熱、そういうものを経営者が持っているかということ。それがあれば、知恵が生まれてくる。正しい熱意、素直な熱意あるところに必ず経営成功の道が開けてくる。熱意は成功へのハシゴ。

8、 経営は必ず成功するようになっている

 経営はもともと成功するようになっている。うまくいかないのは、経営者が自然の理法に則して仕事を進めていないからである。やるべきことをやる。なすべからざることはやらない。そうしたことをキチッとやっていれば、経営は一面簡単なもの。

  自然の理法はものごとをうまくいかしめるような生成発展の性質を持っている。だから、経営というものは必ず発展し続けるものである。

9、 口だけほめても部下は育たない

 部下はほめて育てるということを考える事。大事なことは良い面を見て、その良い面を指摘して伸ばすようにすること。悪い面を見て、その悪い面を指摘して少なくするようにさせるのはあまり効果がない。少しほめるべきところがあれば、それを大いにほめる。人間はいやなことを言われて、向上しようとする人は少ない。良いところを褒められたら、よし頑張ろうと努力する。ほめるということは、叱らない、言うべきことも言わないということではない。ほめるというときに、相手の本質をどう評価しているかということ。その人の本質をまったく評価していない、これはどうにもならない奴だと考えて、でもほめないといけないということで、ほめると。しかしこれはほめることにならない。

10、ガラス張りの経営

   個人経営のときから、毎月の決算を社員に公開してきた。社員も自分の経営の成果を把握していると、頑張りますという気分になる。自分達の会社であるという気持ちになる。ガラス張りに経営をするということは、経営者がいかなる不正も行いえないということになる。経営者自信の自己規制にもなる。

11、会社は公のものである

   会社をやっていくのに必要なお金は天下のまわりものというように、そのとおりである。材料ももとをさかのぼれば、天下のものと言える。人材もそのとおり。いわば経営の基本である、人・物・金すべてが公のものと言える。そうであるとすれば、天下の人・物・金をあずかって営む企業というのは、これまた公のものということになる。ならば企業は社会のため、世間の人たちのため役に立つような働きをしないといけないことになる。

12、朝会はこれからこそ必要になる

   朝会というのは意思を疎通させるとか、みんなの気持ちをひとつにするとか、あるいは会社の進んでいく方向を周知させるとか、いろいろな効果を生み出す。また交代で社員の人が話をする。これもお互いに、あの人はああいう考え方をしているのかということもわかる。価値観が多様化すればするほど、一方で共通のものが必要だし、今会社でなにが起こっているのかわからないと困る。経営者が自分の考えを部下の人たちに伝えようとするならば、燃える思いで訴える。繰り返し訴える、なぜ訴えるのか説明する。

13、人間の偉大さを自覚する

   人間は偉大な存在。いわばこの宇宙における王者。人間は牛を食べたり、豚を食べたりする。どうしてそういうことが許されているかというと、人間がこの宇宙の中で王者として君臨しているからだ。いわばこの宇宙に存在するすべてのものは、人間の平和・幸福・繁栄のために存在している。大事なことは人間がお互いに偉大な存在なんだ。自然の理法に従えば万物を支配し、宇宙に君臨することができるほどの大きな力を持っているのだということを強く自覚することだ。だから、人間はみずからの行動もほどほどにしないといけない。万物の王者であるから、それなりの自覚と責任を持って、万物に相対していかなければいけない。

14、経営の第一歩は人間観の確率から

   経営者はどの人も王者だ、という考え方を根底に持っていないといけない。社員誰に対しても、ああこの人はすばらしい存在だ。偉大な力を持った人だと考えないといけない。人間観を持たないで、信じるとか信頼するとか言っても、それは本物ではない。この人間観は経営における第一ボタンだ。最初掛け違えるきちんと服が着れないのと同じだ。

15、運命90%、努力10%

   運命が90%で、残りの10%が人間にとっては大切だ。例えば、船があって、自分が大きい船か、それとも小さい船か、それはそれぞれの人にとって運命かもしれないが、肝心の舵のところは人間にませられている。無事その船が大海を渡り、目指す港に着くことができるかどうか。残りの10%がその舵の部分だということだ。運が90%だから努力しなくて良いということではない。そして努力したから必ず成功すると考えてもいけない。しかし成功するには必ず努力が必要だ。

16、知恵は汗の中から生まれる

   まず汗を出せ、汗の中から知恵を出せ。たとえ知恵があってもまず汗を出しなさい。本当の知恵はその汗の中から生まれてくる。最初から知恵のある人でも、その知恵を社会の波で揉んだほうが良い。

17、活動する哲人であれ

   これからの経営者にとって大事なことは、なんといっても人柄だ。まず暖かい心というか、思いやりの心を持っているかということ。それから誠実でないといけない。ものごとを真面目に考える。一生懸命考える。そしてそれに取り組む。もうひとつ付け加えれば、経営者は素直でないといけない。この素直な心を身に付けることに成功するならば、もうこれだけで十分だと言える。それほどのものだ。

18、後継者に必要な四つの心がけ

   一つ目は、後継者は謙虚であらねばならない。創業者や先輩諸氏に謙虚にふるまうことが大事。二つ目は、その創業者や先輩の権威を積極的に活用すること。自分がこう思うというより、創業者はこういうふうに言ってますよ、こういう考えですよと社員に話をする。自分の考えを、創業者の言葉を借りて話をする。三つ目は、経営理念を精密に研究、体系化すること。経営理念を体系化した、文書化したしたものを使いこなすには、その文書化された経営理念を水に溶かさないといけない。そのことを理解したうえで、社員にも理解させて、後継者は創業者の考え方、行動を十分に念頭において、経営理念の研究、体系化に取り組まなければならない。四つ目は三代目の育成をしっかりとやるということだ。それが我が子であるか、生え抜きの社員であるかは問わない。たいがい組織というのはこの三代目がその盛衰の鍵を握っている。三代目は生まれながらにして王様だ。初代の苦労がわからない。周囲もおだてる。そういう環境なので、どうしても甘くなるのはしかたない。

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